『愛遊記』
第十五回:「ライダーマーズ」

元力士の違和ノ花は、地方巡業の仕事がらみで四国にやってきていました。

仕事の合間に、ドライブの風景を配信しながらキャスをするのが最近の日課です。

「喜田無羅さんこんにちは!そっちはまだ寒いんですね。そうですか。
 いやー今日はねー、四国まで来てんですよ。別に四国の社長に用があるわけじゃなくて、仕事なんです仕事。

 あんまりね、西日本の方には来ることはないんですけど、今回は特別って感じですね。 
 風景見えてますか?北関東とどっちが田舎かなって言うとまぁ似たり寄ったりかなと。 
 こっちはね、うどんがホント美味しくて。さっき食べてきましたよ。本場です。

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 あっユウユウさんこんにちは。今日はマックじゃなくて讃岐うどんでした。
 ほれ、ユウユウここか?ここだろ?」

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などと楽しそうにリスナーたちとコミュニケーションをしていたときのことでした。

「ユウユウさんもね、自分からネタにされに来ちゃってる部分もあるんで、
 まぁそのへんはしょーがないかと。ほら、また喜田無羅さんも悪乗りし始めたじゃないですかー・・・ってあれ?なんかあれ、バイクが人に…いや?人がバイクにぶつかっていきましたよね?
 事故・・・じゃないよなぁ。皆さんも見てましたよね?」

鍵垢法師一行は備中から高速バスで海を渡り、四国に到着しました。

あと一つ県境を越えれば悪鬼の根城は目と鼻の先です。

とはいえ、せっかく遥々と讃岐までやってきたのですから、
うどんを食べに行かない手はありません。それに、腹が減っては戦は出来ないものです。

はたから見れば愚かな仲間と、だらだらと国内旅行をしているだけのようにしか見えないのは言うまでもありませんが、
法師は大きな達成感に打ち震えていました。

思い返せば、故郷の街を旅立ってから様々な労苦があり、危機に陥ることもありました。
それら乗り越え、とうとう目標としていた四国の地に降り立ったのです。

コメント 2019-05-22 205925


(俺はやったんだ!やったぞ!!どうだ!!!)
法師は目を閉じて空を見上げ、両こぶしを握り締めていました。

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これまで辛酸を舐めさせられるようなことばかりだった人生の中では、
有言実行が成し遂げられた、数少ない輝かしい出来事の一つとなったからです。

黄八戒と鈍悟浄は法師が自分の世界に入り込んでいるのを、
「また始まったか」とは口には出さずに、互いに目を合わせて呆れ返っていました。

さっさと腹ごなしに行きたいところでしたが、
法師の性格からして、突っ込みを入れれば面倒なことになって余計に時間がかかる、という打算が働いていたのです。

するとそのとき、遠くの方からエンジンの爆音が聞こえてきました。

「ブォオオーン!ブオンッ!ブゥオオオオオオーン!」

メリハリの利いたエンジン回転数の引っ張り方やシフトチェンジのスムーズさから、
その爆音の主がかなりの乗り手であることが察せられます。

「ォオオオオオオンーーーーーーン」
段々と爆音が近付いてきました。

(もしや・・・合蛇の手先か?まさかこんなにも早く?!)
法師は今いるところが悪鬼本拠にほど近い敵地といっていい場所であることを思い出しました。

であれば、いつ敵方の襲撃に遭遇してもおかしくありませんし、
それに、本拠地近くには本格的な戦力を配置するのは戦いの定石です。

法師の危機感が鋭敏に働き始めます。

「八戒!悟浄!準備をしろ!」

「はい?なんすかもー、早ううどんのお店に行きましょーよー」

「はいはい、わかりました」

そしてとうとう爆音を轟かせながらバイクがその姿を現し、一行に一直線に向かってきました。

(うわっ?!!!は、早く避けないと!!糞便ッ!!!)

バイクはスライドしながら一行のかなり前方で停止し、
安全な距離が取られていましたが、驚きのあまり法師は尻もちをついてしまいました。

「あ、あ、あ、危ないじゃないか!」

一人逃げ遅れた法師は腰を抜かした状態のまま、文句を言いました。

すると、漆黒のライダースーツと漆黒のヘルメットを身に着けた男が、
「ごめんごめん。別に轢いたりしないって 笑」

などと言いながら漆黒のバイクから、にわかに土煙が立ち上っていた地面に、颯爽と降りたのです。

「だ、誰だお前は!」

威嚇するように大声を出しても、尻もちをついた状態では格好がつかないので、
「お前らぼーっとしてないで、手を貸さないか!」
と早々に身を躱していた弟子たちに命じます。

弟子たちの手つきはしぶしぶとしたもので、身体を立たせてもらうのにやたらと時間がかかります。
一方でバイクの男はただ腕を組んで衒いもなく佇んでいます。

「だから、お前は誰かと聞いている!」

法師は、尻のあたりが温いのが気になったのか、イラついた様子で問いただします。

「俺は、ライダーマーズ!」


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「何の用だ!」

「お前たちに忠告をしにきた」

「忠告?一体なんのことだ?こっちは真っ当に反差別に取り組んでいるだけだぞ」
法師はドヤ顔で反論しました。

これまで自分の正義を疑わずに道徳的にも思想的にも下位の存在である
ネトウヨやレイシストと闘ってきただけなのですから、そのあたりは自信満々です。

「じゃあ、これは何かな?笑」

ライダーマーズはこれまでの法師一行によって行われた誹謗中傷ツイートが
印刷された紙面をシート下から取り出して、そこら辺にばら撒きました。

「お前!いきなりっ!ななななにをするんだ!」

法師がそう言いながら焦った様子でそこら中に舞い散った紙面をかき集めていると、ライダーマーズは法師にとって厳しい現実を突きつけました。

「お坊さん、然るべきところに相談しようと考えているんですよ。というかもうやった」

「然るべきところ?何を考えている!?

(まさかヤツは!そんなはずはない!そこまでやるはずがない!)」

「然るべきところは、然るべきところですよ。お坊さんに言う必要はない」

「はぐらかさずに答えろッ!」

ライダーマーズはやれやれといった身振りをすると、

今度は腕を胸の前でクロスさせ、そして両手を空に向かって掲げました。

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「G.H.T(Great Head Temple)!!」

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と叫ぶと、古えの僧侶のように見える大きなシルエットがライダーマーズの背後に突如として浮かんでいるではありませんか。

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幾度も人の命を助けるという徳を積むことで、ライダーマーズに天授された召喚術が披露されたのです。

「よし、出てきたな。お坊さん、俺の背後にいるこれがなんだかわかるよね?」
ライダーマーズは呆然としている法師に向かって問いかけました。

「もうこのG.H.Tにはある程度話をつけていて、呼び出せるようにしたんだわ」

「さっきからお前、ええ加減にせえよ」
八戒がとりあえずといった感じで口を挟みました。

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「最近そっちの悟空が関西弁になってたりするんだけど、八戒さんは心当たりない?笑」

「なんやねんそれ?証拠もなく疑うのは誹謗中傷やぞ。やめてくれるか?」

「はいはい 笑
 俺が用があるのは主に法師さんなんで、今日はその話はやめとくわ 笑」

「お、お前が呼び出したそれは、私に…いや、私の言うがままだ!
 そこまでやったから、知ってんだろ?私が業界でそこそこの地位にあるって。
 だ、だからほら、無駄。無駄なんだって!すぐやめて…やめないと、た、大変なことに、お前っ、なるぞ!!」

法師はますますテンパっているようです。

「なかなかの慌てっぷりが見れてもう今日は大満足だわ 笑」

ライダーマーズはそう言うと、G.H.Tの召喚術を解いてバイクにまたがりました。

「お坊さん、忠告はしたからね。今日の会話もちゃんと録音してるからね」

「ちょっ待て待てお前、待て!」

法師は尻が温くなっていることもすっかり忘れて、今度は顔面蒼白です。

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G.H.Tを呼び出されては、マジでピンチです。洒落になりません。

(なんとかして誤魔化せねば、もみ消さねば!)
生存欲求が法師の頭脳をフル回転させます。

(こうなったらどんなことをしてでも、邪魔だから潰さないとダメだ!)

そして法師は、今回の件を解決するため、ライダーマーズを社会的に抹殺することを決意しました。

「法師様、大丈夫ですか?知らんけど」
すると八戒が話しかけてきたので、法師は今は「使える」弟子たちがいることを思い出しました。

「八戒!悟空にログインしろ!それから悟浄、お前はスマホのカメラを立ち上げろ!ビデオの状態にしておけ!」

二人の弟子は従わないと面倒なことになりそうなので、指示を直ちに実行しました。

そして法師は、悟空にログインして棒立ちになっている八戒を背後からひっつかみました

「あーっ法師様なにするんですか!」

「黙ってろ!悟浄、いいな?」

「あっ、はいっ!」

法師は、フリーズ中の八戒を背後から勢いよく突き飛ばして、
ライダーマーズがまたがったまま停止中のバイクの前輪部分に衝突させました。

法師は、八戒の能力や人間性については極めて低く評価していましたが、
その差別の当たり屋的な被害者ポジションのテクニックには一定の才能を認めていました。



そのことからライダーマーズに対して当たり屋を演じさせるのを着想したのです。

八戒は法師の狙いを理解し、即座に悟空からログアウトして本体に戻っていました。

当たり屋としてはプロレベルの身代わりの早さです。

「ああ~痛い痛い痛い~~~轢かれた~」



八戒は地面に倒れていながら、大袈裟に演技を始めます。

「救急車!救急車呼んでっ!」
と法師があおれば、

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「撮っとるで~撮っとるから無駄やで~」
と悟浄がライダーマーズにプレッシャーをかけます。見事な連携プレーです。

ライダーマーズも状況を把握して焦り始めていました。
そして「こいつらはここまでやるのか」と法師一行の卑劣さに戦慄しました。

八戒は、
「ああ~痛い痛い痛い~~~轢かれた~」
などと言いながら、カメラに映らないようにニヤついているのですから、よくわかっています。

そのとき、三文芝居が行われている広場に、営業車に使われていそうなバンがやってきて停止しました。

そしてドアが開くと、車の中から力士のような大柄の男が降りてきたのです。

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「あのー、大丈夫ですかぁ?」
と違和ノ花が声をかけると、
「救急車!救急車呼んでください!警察も!」

と法師は八戒を介抱する演技をしながら、いかにも必死そうに助けを求めました。

一連の流れを見ていた違和ノ花はその要請を意に介さず、
「ドライブレコーダーじゃないんですけど、偶然スマホのカメラで風景を撮ってたんですよ」

と単刀直入に自分の立場を説明しました。法師たちは形勢が自分たちにマズい方向に転じかけていることに気付き、一様に気まずそうな顔をしています。

「さっきのって、このバイクの方がその人にぶつかったんじゃないですよね?
 明らかにそっちの人がその人を突き飛ばして、バイクに当たって行ってましたよね?」

「ありがとうございます。そうなんですよ。こんなんもう当たり屋ですよ!詐欺ですよ!」
思わぬ助勢を得て、窮を脱したライダーマーズは、さらなる追及態勢に入りました。

「法師さん、この件も然るべきところに報告しますからね。いいですね」

「ちょっとこれはひどいんで、映像ファイルを送りますよ。

 これは僕の名刺です。違和ノ花と申します。いつでも連絡して下さいね」

「マジで助かりました。こんな当たり屋みたいなことをされて、どうなるかと思いましたよ。
 あとでまた連絡しますんで、よろしくお願いします」

そんなやり取りが交わされると、二人は別々の方向に走り去っていきました。

法師が土壇場で思いついた乾坤一擲の作戦はあえなく不発となるばかりか、自分たちをさらに追い込むような結果に終わってしまいました。

鍵垢一行は地面にへたり込んで、しばらく身動きが取れなさそうな様子です。

コメント 2019-05-22 205609

この状況ではうどんを食べに行って、コシの強い讃岐のうどんを飲み込もうとしても、上手く喉を通っていかないのではないでしょうか。

次回予告:第十六回『怨念の砦の戦い』
リリース予定(たぶん、近いうち)