『愛遊記』
第四回:「山悟空(さんごくう)」

《この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません》

「あの、ちょっと待って。君と話をする前に始末をしておきたいから」

鍵垢法師は石の下の阪神タイガースの野球帽の男に断って、近くの川で尻と下着を清めることにしました。そうしていると少し心が落ち着いてきたような気がします。

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下流にいた釣り人が非難の眼差しを向けてきましたが、いちいち構っていられません。


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法師は来た道を戻って石の下の男に問いました。

「君は一体なんなんだ?私に用でもあるのか?」

「俺はお前の煩悩だよ。先代がお前の行状を見かねてこの霊石にお前の煩悩をかき集めたモノを封じ込めたんだ。それが二十年近くの時を経て、人格を持つようになったんだぞ」


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「ということは…!」

「そうだ、俺はお前だよ」
石の下の男はよく見ると品のない笑みを浮かべているだけで、ほとんど口が動いていないことに気付きました。

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このとき、法師にクレームをつけようとした先ほどの釣り人が後を追って来ていたのですが、釣り人には法師が一人で石と会話しているようにしか見えず、気味悪がって立ち去りました。

石の下の男は法師の心に直接語りかけていたのです。

(お前のことは全部わかるんだぞ。特に煩悩に関することはな。何か欲しいもの、飲み食いしたいものを念じてみろ)

(ああそうだ、東京と言えば銀座で…)

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(焼肉とシャンパン!)

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(仕事は…)

(外資系エリート!)

(どうせ住むなら…)

(タワーマンション!)


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(某ブランドの!)

(シンガポール限定のバック!)


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(僕は!)

(偉い!尊敬されて当然!)

(なりたい顔は!!!)

(羽鳥アナ!)


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(すごいな君は!全部わかっているじゃないか!)

法師は生まれて初めて自分の本当の理解者に出会ったような気分でした。

(どうかな?一緒に来てくれないか?)

(頼まれるまでもないぞ!でも俺には実体がない。だから複垢の法を使えないか?)

複垢の法とは、本来は存在しない人間をでっち上げ、好き放題な人物設定と仮の実体を与えたりすることなどができる法術です。

自分と複垢両方を同時に操ることが出来なかったり、相当な暇人でなければ使いこなすことが難しいという欠点がありますが、上手く活用すればお供がいるかのように装うことが出来ます。

邪法・外法の類ですが、悪鬼が相手となれば仕方がありません。

それにこの煩悩から作られた分身は心強い味方になるでしょう。

毒には毒を以て制するものです。とはいえ反差別の同志たちの敵である合蛇夏鬼と戦うにあたっては、更に強い動機付けが必要です。

そのため、複垢の法の力で差別とネトウヨを強く憎む心を分け与えることにしました。

「排外主義のヘイト豚!ブヒッブヒブヒ!!」

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法師はその仕上がりを見て、満足そうに頷きました。

こうして、鍵垢法師のコンプレックスをベースとした複垢が誕生しました。

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法師の性質のうち、より俗っぽくて、低劣な品性が抽出された分身です。

それでいて、法師の意のままに操れるほど忠実で、しかも汚れ仕事をさせても自分とは別人ということにもできる、とても都合のいい存在です。

また、僧侶の弟子らしく見せかけるため、「山悟空(さんごくう)」という法名と自分の持つ煩悩に由来した人物設定を授けました。

この法名の「山」は山中で出会ったことと、高名な僧侶の家名にちなんだダブルミーニングで、「空」は実体が存在しないことを意味したものです。


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お供が出来て嬉しくなった法師は、山悟空を連れ立って街の盛り場に出向き、一杯千円のシャンパンで乾杯したのでした。

次回予告:第五回「複垢乱発」
2月25日(月)リリース予定